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第57話 まだ気づいていないうちの優越感

Author: marimo
last update publish date: 2026-03-11 20:47:25

正直、こんなにうまくいくとは思っていなかった。

 神崎和真は、コンビニの袋を片手に、綾乃のマンションへ向かうエレベーターの中で、ひとり口元を緩めていた。

 エレベーターの鏡に映る自分の顔を、何となく眺める。

 いつもの、柔らかい笑顔。

 人当たりがよく、安心させる顔。

 昔から、この表情は得意だった。

 温めたスープと、彼女が好きだと言っていたパン。

 それだけで、十分だ。

 大げさなことは必要ない。

 むしろ、こういう“さりげない気遣い”の方が効く。

 ――いや、正確には。

 “それ以上”を、もう手に入れかけている。

「……ほんと、ちょろいよな」

 小さく呟いた声は、誰にも聞かれない。

 エレベーターの機械音だけが、静かに響く。

 綾乃は、警戒しているようでいて、肝心なところが甘い。

 人を見る目がないわけじゃない。

 ただ、信じることをやめない。

 疲れている時ほど、誰かの善意を疑えなくなる。

 それを、和真は知っていた。

 だから、急がない。

 焦らない。

 優しさを、少しずつ積み重ねる。

 エレベーターが止まり、静かな廊下に出る。

 足音が、柔らかく床に吸い込まれていく。

 
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